遠隔授業:青年の心理 ADLESCENCE PSYCHOLOGY No.3

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青年心理へのアプローチと課題

  1. 青年期の身体発達
    1. 形態的発達
    2. 青年期開始の指標=急激な身体発達:身長や体重などの形態的発達と第2次性徴→発達の過程を見ると、出生後から2歳頃までと、10代の前半に急激な発達が見られる。この発達の著しい2つの時期は順に第1次発育急進期・第2次発育急進期と呼ばれる。…特徴がある。

      1. 女子が男子よりも発達が早く始まる。
      2. 個人差が大きい→男女とも思春期のスパートの生じ方には個々人での差が大きく、この時期にあたる小学校高学年の教室では、低学年並みの体格の者から大人と同じような体格の者までが見られることになる。

    3. 形態的発達
    4. 児童期までは主として生殖器の形態上の差異に基づく第1次性徴が男女間の差異であったが、それ以外の身体部位や生殖機能の差異に基づく第2次性徴が発現する。具体的には@男子では変声・精通・発毛、肩幅が広くなり、筋肉質のいわゆる男性的体つきの形成など、A女子では乳房の発達・月経・発毛、骨盤の発達した腰幅が大きく、皮下脂肪の増えたいわゆる女性的体つきの形成など。
      =これらが発現する順序はおおむね一定。

    5. 体力の発達
    6. 青年期にはこうした身体発達とともに、運動能力や体力も増進し、多くの体力要素が20歳までにピークを迎える。
      表3-1

    7. 身体発達にかかわる課題
    8. このような身体発達は、通常の生活環境、栄養環境にあれば、年齢に応じて発現することになるが、こうした身体発達をどのように認知し、自己の身体として引き受けていくかと云った心理的受容は必ずしも自然に伴うものではなく、本人が直面しなければならない課題となる。

  2. 青年期の自己意識
    1. 自我の覚醒
    2. 自我(ego):行動や意識の主体としての自分で、英語の一人称主格"I"にあたる。
      自己(self):自分自身が自分を対象として見たときの「客体」としての自分"me"。

      自我や自己にかかわる青年期の大きな特徴は、児童期までは主に外界に向けられていた「目」が、自分自身にも向けられるようになることである。それまで、あまり気づいていなかった自分の存在を自らが意識するようになることから、自我の覚醒或いは自我の発見と云われている。青年が自分自身を認知することが出来ると云う事は、この自我と自己とを分離させ、この二つの自分に気づくことを示している。

      こうした自我の覚醒は、発達に伴って自動的に生じるのではなく、ほかのいくつかの発達が引き金となって起きると云える。この引き金になる要因として、鈴木康平(1977)は@知的能力などの認識力の発達、A身体の発達、B情緒体験の豊富化、C社会性の発達を挙げている。=青年期になると、具体的事象にとらわれることなく、抽象的思考が可能となる形式的操作の段階になり、目には見えない自分の内面についても考えていくことができるようになる。また、青年期の身体発達は急速で劇的なものであるため、変わりゆく自分の身体に関心が向けられ、ひいては自分というものを考える契機となる。さらに、ちょっとしたことで腹を立てたり、喜んだりというように、青年期には情緒の変動が大きく、情緒の分化も進み、いろいろな情緒体験をする自分に目が向くことになる。加えて、特に友人関係を中心とした人間関係が広がっていくことにより、家族のなかでの自分、クラブの中での自分というように、いろいろな人間関係のなかでの自分を意識するとともに、自分の役割なども自覚するようになる。

    3. 自己意識の特徴
    4. 自己が客体としてとらえられた時の自己の内容を自己概念(self-concept)或いは自己像(self-image)と云う。Montemayor, R.とEisen, M.(1977)は自分自身に関する自由記述から、児童と青年の間で自己をとらえる観点の差異を次の様に示している。すなわち、年齢が上昇するほど増加する観点として、職業的役割、実存的存在としての意識、イデオロギーや信念の枠組み、自己決定権、統合刊・対人関係でのスタイル、気分や感情の特徴などがあげられ、反対に減少するものとして、居住地についての意識、所有物、身体意識があげられている。従って、年齢が上昇すればするほど(=青年のほうが)外面的な視点よりも内面的な視点に立って、より未来志向的、抽象的、対人関係的、心理的な観点で自己を記述している。

      次に、こうして認知された自己概念は、自己により評価されることになり、評価的次元での自己意識として自尊心あるいは自尊感情(self-esteem)と呼ばれるものが生じることとなる。つまり、日常的に感じられる自信、優越感や劣等感が、これに対応するものとして考える事ができ、自己を肯定的に評価する程度が高いほど、自尊心が高いことになる。但し、評価の基準はあくまでもその青年自信のもつ基準に依存しており、試験で同じ成績をとったとしても「クラスの平均点よりも高く、良かった」とプラスに評価する場合もあれば、「これでは上位グループに入れず、だめだ」とマイナスに評価する場合もあるだろう。こうした評価は次の行動にも影響し、更に頑張ろうと意欲的になる場合もあれば、どうせやってもだめだとやる気をなくす場合もある。このように、自尊心は自己の価値を査定するとともに、その後の行動に与える影響も大きいと云われている。他方、自分と他者の区別が明確になるこの時期には、他者との比較がよりなされやすく、劣等感が生じやすいことも特徴的であり、これは自尊心の低い状態と考えられる。 このほかにも、現実の自己像としての現実自己、理想の自己像としての理想自己も自己概念として持つようになり、このふたつの自己像の差異が大きい時に不適応が起きやすいと云われている。また、青年期特有の孤独感をもつ一方で他人に自分の気持ちや考えなどを伝える自己開示がどのようにできるかも重要な課題であろう。さらに、理想主義のもとで自己嫌悪に陥りやすい青年期では、長所につけ短所につけ自分と云うものをいかに受け入れていくかという「自己受容」も課題になる。

    5. 性役割の形成
    6. 思春期の第2次性徴の発言は、青年に対して実態をもって男性或いは女性であることを示すことになる。=身体発達は青年自身だけでなく、周囲の者に対しても性的存在であることを告知する事になる。特に、各「性」に割り当てられる社会的期待を性役割と云い、「男は青い服、女は赤い服」「男は外、女は中」と云った考え(gender)も一つの性役割と云える。

      児童期までも性別はあったが、第1次性徴以外に違いのない、いわば「非」性的存在であり、主として親や講師からお性役割のしつけや指導を(無批判に)受け入れてきた。しかし、青年期になり、こうした変化や自己への関心が生じ、これまでに身につけてきた性役割や、社会や他者から期待される性役割に疑問や批判が向けられることになる。

  3. 青年期の対人関係
    1. 親との新しい関係の模索
    2. 青年は身体発達により親と変わらない身長や体力をもったり、自我の覚醒により社会への視野や自己の理想を持ったりするようになる。また、中学生になれば、電車や遊園地などの料金も子ども料金ではなくなるなど、社会的に子どもとして扱われることが減ってくる。こうした自己の内外の変化を経験する中で、親も一人の大人に過ぎない存在になり、言動に矛盾を感じたり、自己の理想とは遠い存在であることに気づいたりする。(=第2反抗期:これまで絶対的権威者であった親に対して批判的になり、反抗や反発が見られる)これは心理的離乳(psychological weaning)と云われる親離れが始まったことを示しており、関係が悪化することが多い。この時期の青年は親との関係をこれまでの権威−服従関係から対等な関係へ変化させようと求めることになる。しかし、その一方で情緒的には親への依存や甘えは強く、アンビバレント(ambivalent)な感情を示すことになる。このように、一時的不調をきたす親子関係も、青年後期になると緩和の方向へ向かう事が多く、青年も欠点や矛盾をもった親を受容できるようになっていく。←より広い社会や対人関係上の経験を持ったり、親元を離れて生活したりの経験が契機になることが多い。

    3. 遊び友達から心の友へ
    4. 青年期になると生活空間が広がり、児童期までの過程を中心とした小さい人間関係から、接触する人間関係も拡大し、より広い関係を構築していくことになる。とりわけ、友人は重要な位置を占め、単なる遊び仲間から少数の親友関係へと移行していくとともに、これまでなかった孤独感も経験するようになる。

      友人集団の発達についてDunphy, D.C.(1963)は次の様に説明している。=集団にはクリークと呼ばれる小集団(3-9人、平均6人)とクラウドと呼ばれるクリークよりも大きな集団(12-30人、平均20人)があり、図3-9に示される発達的段階が見られたとしている。段階1では、同姓少人数のクリークが創られ、お互いのクリーク同士の交流もなく、自分たちの秘密が保持されるような親密な関係が出来る。次に段階2ではクリーク同士の交流が始まり、異性との接触も生じるようになり、クラウドの初期形成と見られる。さらに段階3では同姓のクリークは保持されたまま、クリーク上位の者同士により異性を含むクリークが創られる。そして段階4では異性混在のクラウドが創られ、クラウド相互間の交流もなされる。最後に段階5ではクラウドが解体され始め、男女のカップルのクリークへと縮小されていく。
      図3-9

      こうした青年期の友人関係が果たす機能について、松井豊(1990)は安定化の機能、社会的スキルの学習機能、モデル昨日の3点を挙げている。つまり、これまで見てきたように不安や葛藤など精神的ストレスの多い青年期にあって、友人と会話や活動を共有することにより、心理的安定が図られる。また、最も近しい他人としての友人との付き合いを通して、家族との関係では学習できない他者一般との付き合い方の技術である社会的スキルを学習する。さらに、友人は自分の知らなかった生き方や考え方を教えてくれるモデルにもなり、新しい世界を広げてくれることになる。

    5. 異性への憧れ
    6. 青年期に友人関係では、同姓の親友的存在の獲得が重要である一方、異性との友人関係の形成がもう一つの課題になってくる。先に述べたDunphyの説によれば、異性とのかかわりは段階3以降になるが、異性への関心は既に青年前期から生じている。(←第2次性徴の発現が契機:自分が実態をもった女であること・男であることの自認)しかし、実際には恋愛関係を指向しながらも、すぐには具体的交際には結びつかず。憧れや失望、恋愛や失恋を経験していくことになる。

    7. 対人関係にかかわる課題
    8. 親との関係については、新しい関係の模索が大きな課題となり、いかに心理的離乳を進めていくかが中心となるだろう。友人との関係では他者とは異なる独自の存在としての自分に気づき、自分のことは誰にもわからないという気持ちと、誰かにわかってほしいという気持ちの葛藤を解決し、親友関係を形成し、孤独感と健康的に付き合っていくことが課題となるだろう。また、異性との関係では、いかに異性愛を形成し、将来的には人生のパートナーとすることが出来るようになるかが課題となるだろう。
      表3-1

      図3-10


    参考文献

    落合良行・伊藤裕子・齋藤誠一 ベーシック現代心理学 4 青年の心理学 [改訂版]  2002 有斐閣
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