遠隔授業:青年の心理 ADLESCENCE PSYCHOLOGY No.8

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適応障害と過剰適応

  1. 適応障害(maladjustment:E)
  2. 適応異常・不適応とも云う。適応の過程は生理的過程、生理・心理的過程、心理的過程など、さまざまな領域から取り上げられるし、また個体の部分的適応の過程から全人格的過程としての適応までさまざまである。適応障害の場合にもその様相は同じである。さまざまな生活領域(家庭・学校・職場)に関して外的適応(客観的に見て、社会的文化的基準に依拠しながら他人と強調し、また他人から承認されている場合)と内的適応(個人の主観的世界、現象的内的枠組みにおける適応、自己受容、充足感、自尊感情など)を区別できる。これらのさまざまに区別される適応の過程・領域のいずれにせよ、うまくいかない状態を適応障害と呼ぶ。適応に失敗した場合、心理的に欲求不満が生じるが、その不満に耐え、コントロールする力が誰にも多少なりとも存在する。この力を耐性(tolerance)という。心理的には不満が耐性を超えた場合、人格的な混乱を引き起こすと云える。適応障害には、一過性の単純な適応の困難(simple maladjustment)から、持続的な社会的不適応、慢性的な内的葛藤(外的・内的適応障害)までさまざまである。適応障害に至る要因は大きく次の3群に分かれる。(1)疾患によるもの:この中には身体的要因によるもの(流行性脳炎、進行麻痺、脳の外傷など)、内因性精神病、神経症などが含まれる。(2)欠陥や人格障害によるもの:知的欠陥や境界型人格障害、分裂病質人格障害、反社会的人格障害など。(3)状況による適応障害―人格的要因よりは環境的要因によるところが大きい、正常な人にも現れやすいもの。これは前二者の持続的な障害に比べて、一過性の適応障害であることが多い。また適応機制を考える上で、適応障害と適応を対立概念と考える立場と、例えばヒステリー反応や非行も、一時的にせよその個人の安定追求のやり方で、適応への過程と見る見方がある。
    なお、アメリカ精神医学会の精神障害マニュアル(DSM-V-R)によれば、適応障害の診断基準として、次の五つを挙げている。A.はっきりと確認できる心理的社会的ストレス(または複数のストレス)に対する反応で、ストレスの始まりから3か月以内に起こるもの。B.その反応の不適応的特質は以下のどちらかで示される:(1)職業的(学業を含む)機能、または日常の社会的活動、または他者との人間関係における障害。(2)そのストレスに対する正常で予期されるものより過度の症状。C.その障害は、単にストレスに対する過剰反応のパターンの一つではなく、先に述べた精神障害の悪化でもない。D.不適応反応は6か月以上持続していない。E.その障害はどの特定の精神障害の診断基準も満たさないし、単純な死別反応を示すものでもない。そしてその病型として、不安気分を伴う適応障害、抑鬱気分を伴う適応障害、行為の障害を伴う適応障害、情動と行為の混合して障害を伴う適応障害、混合した情動像を伴う適応障害、身体的愁訴を伴う適応障害、ひきこもりを伴う適応障害、仕事(または学業)の停滞を伴う適応障害、特定不能の適応障害の九つを挙げている、この考え方はどちらかといえば上述の正常人にも現れやすい、一過性のものを指しているといえる。→適応、適応過程、適応機制、欲求不満
    (佐治守男 p.363 「新版 精神医学事典」弘文堂 1994)

  3. 過剰適応(overadaptation:E)
  4. 対人関係を含む社会環境への適応の仕方において、必要以上に過度に適合した状態を指して云う。しばしば社会的な不適応(maladaptation)と対比される形で話題にされる。われわれは日常の社会生活の中で、周囲からの要求や圧力、内的な衝動や欲求を自我の防衛機制によって、うまく調節し対処しつつ適応しているが、その適応の仕方が不適切であったり、過剰であると種々の心身の障害や問題行動を引き起こしやすい。一般に神経症の患者は些細なことに反応して感情的になったり、トラブルをきたすなど不適応をきたしやすいのに対して、心身症の患者はむしろ真面目人間・仕事中毒症・模範的・頑張り屋・人から頼まれると嫌といえない・他人によく気を使う・自己犠牲的・良い子などと表現される様な過剰適応の傾向が多く認められる。つまり、心身症の患者は内的な感情や欲求を抑えて周囲の期待に応えて過剰な適応努力を払う事によってストレスが生じやすい。このように心身症の患者は身体的に苦痛になる場合を除いて、表面的には明らかな適用上の問題が見られないのがふつうである。→心身医学、適応、適応機制、適応障害
    (中川哲也 p.103 「新版 精神医学事典」弘文堂 1994)

  5. 不適応(maladjustment:E Berufsverfehlung:G inadaptation:F)
  6. [意味]生体が事前的環境、社会的環境或いは自分自身の心的世界に対し、適合する行動が十分とれないで、なんらかの心身の障害を招いている状態を云う。適応行動がまったくできないのではなく、行動の内容が現存する環境に対して不適切であったり、不十分であったりする意味を持っている点から、異常適応・適応異常や適応障害と云う言葉も使われることがある。一般には、人が社会的環境に対し、適切な行動がとれないで、心理的不安定性を示す諸徴候が現れている場合をさす。環境への適切な行動がとれないという内容が、単に個人もしくは社会にとって不利益な行動様式や社会の規範や慣習に合致しない行動型と見る時には、社会にとって不利益な行動や社会の規範や慣習の意味が曖昧で、共通の内容が得られない。それゆえ、環境或いは自分自身の心理的世界に対する個人の行動様式から見て、適合しない行動には、(1)行動と環境とに軋轢・反発があり、緊張が生じている、(2)心理的世界が不安定で、不満感、挫折感などがある。(3)環境への働きかけによってもその結果が報酬感、満足感をもたらさない。(4)環境への反応が後の行動を促すほどの有効性と反復性を持っていない。(5)二次的、派生的反応としての防衛機制、逃避反応などの諸特徴がみられる。

    [形成要因と徴候]不適応自体がその機制、内容においてきわめて複雑、かつその範囲が広いので、単純にその生成要員を求める事は出来ない。そこで、環境或いは自身の心理的世界への適合行動がとれないと云う観点から見ると、その形成要因として次の諸点を挙げる事ができる。@精神分裂病、そううつ病、てんかんなどの精神病、薬物中毒、脳梅毒、脳外傷などによる器質的精神病、A心因性の神経症、B自閉症、緘黙症にみられる自閉的傾向、C非社会的性格、反社会的性格、悪癖、悪習慣などの行動障害、D正常人でもしばしば体験するフラストレーションや葛藤、E恐怖反応やチック症状にみられる情動の学習効果、などが挙げられる。ところが、同じ環境的条件に置かれても、ある人は不適応に陥るが、他の人は全くそのような状態にならない事もある。したがって不適応の形成は一様にあげられても、実際に不適応になるかどうかは、その人のパーソナリティ要因や、その個人が環境的要因をどのように知覚するかなどに依存している。次に、形成要因とは直接関係なく、外的行動に現れる不適応の徴候を分類してあげると次のようである。@情動不安定、不安・恐怖反応、劣等感、孤独感、強迫感、過敏・神経質、空想癖、A対人関係障害、孤立状態、自閉的傾向、緘黙的傾向、友達が少ない、自己中心的、権威的、B反社会的行動、暴力的・攻撃的・破壊的傾向、盗み、虚言、放浪癖、Cチック症状、夜尿、性的習慣などの悪癖・悪習慣、D投射、合理化、昇華などの防衛機制や退行現象、ヒステリー性反応、E知覚障害、学業不振、学業遅滞、記憶力減退などの学習障害。

    [診断と治療・指導]近年、心理・行動障害の診断は形成的要因より症状・徴候を、素質・身体的要因より教育的、機能的要因を重視する傾向がある。もちろん相対的にいずれが重要であるかであって、いずれか重視することもできないし、特に病的形成要因では身体的、医学的診断が重要であることはいうまでもない。そこで、各診断方法で検出される形成要因や症状・徴候について挙げる。@医学的・身体的診断:各種の精神病、神経症、自閉的傾向、四肢・感覚器・内臓などの身体的障害・知的障害・脳障害、内分泌機能障害など、A知能検査:知的障害、学習障害、思考・記憶障害、B性格検査:神経症、自閉的傾向、空想・妄想癖、幻覚、欲求不満、葛藤、不安、情動障害、防衛反応、対人認知の歪み、反社会的性格、C対人関係検査:交友関係障害、孤立性、孤独感、自閉的傾向、非行傾向、D観察・面接法:情動不安定性、対人認知の歪み、不安・恐怖、防衛反応、反社会的性格。
    (原野広太郎 p.693 新・教育心理学事典 金子書房 1979)

  7. 心身症=精神身体的障害 psychosomatic disturbance/disease)
  8. 何らかの身体症状を主とするが、その発現に心理的原因が重要な役割を持ち、その診断や治療に、この心理的要因への配慮が必要な障害・疾患を総称する。 現れる症状は極めて多岐であるが、呼吸器系・消化器系・泌尿器科系・自律神経系の支配領域に現れる事が多い。代表的現れ方を挙げると、呼吸器系では気管支喘息・過呼吸症状群。消化器系では周期性嘔吐、消化器潰瘍、神経性下痢・便秘、神経性無食欲、食欲不振、異食症。泌尿器系では頻尿、遺尿。また筋肉系でのtic、書痙、どもり。神経系での偏頭痛、その他蕁麻疹、円形脱毛症、乗り物酔い、眼精疲労などが挙げられる。いずれの場合も身体的原因に根ざしているものは除く。 しかし、身体的か心理的かは必ずしも相互排他的にとらえられるものではなく、身体的原因による諸種の障害・疾患に、心理的要因の加重が見られることも稀ではない。他方純粋に心理的原因で引き起こされる神経症にも、身体症状を前景に持つ心気症、ヒステリーとの移行も実際には多く経験される。さらに詐病とは明らかに意識しての症状の形成が認められば区別は出来るが、小児の場合などは鑑別困難な事も少なくない。
    診断・治療においては、当然のことながら身体的次元からと共に心理・社会的な次元からのアプローチが必要であり、診断にあたっては本人との心理的面接、テスト、環境調査などが必須となる、治療においても身体治療以外に心理治療、すなわち精神分析療法、催眠、自律訓練法など、時には行動療法などが用いられ、また環境(小児の場合は特に親)に対する働きかけが行わなければならない。
    (上出弘之 p.480 新・教育心理学事典 金子書房 1979)

    ※横文字の後ろのEはEnglish、FはFrench, GはGermanを示す。

    ↑誰でも「新しい環境=職場や結婚相手の家庭など」に入れられると適応しようと努力する。うまく行きすぎれば「過剰適応」、うまくいかなければ「適応異常」と呼ばれる状態になる。「自分の人生」との折り合いのつけかたとの適応状態はいかが? じっくりと取り組んでほしい。


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